久しぶりに退屈な1日だった。
清光は遠征に行ってるし、他の刀剣達も自分の趣味に勤しんだり内番をしたりしてて僕だけが暇みたいだった。
なので主の部屋に遊びに来たのだけれど、主も政府に提出する書類作成に勤しんでいて。
そして今に至る。
「主ー、この本の続きはー?」
「そこの一番端の下の段の裏。」
「あった!」
そうして寝転びながら続きを読み出す。
「あの、安定?主の部屋にゴロゴロしに来たの?」
「たまに遊びに来て、勝手に漫画全巻読んで帰る友達位鬱陶しいよ?」
主の顔が引きつっている。
「だって鍛錬ももう終わって、清光もいないしする事が無いんだもん。」
「そんなに暇なら、書類作成手伝って?」
「えー、頭を使うのは苦手なんだけど…」
「手伝うよね?!」
「分かりました…」
適当でいい。なんて言われたからその通りに書いていく。
「主も毎回月末には書類に追われてるよね。
もっと早くから片付けたらいいのに。」
「正論言わないで…刺さるから…」
「そうだ、ねぇ主。僕って前の主に似てるかなぁ?」
「突然どうしたの?んー…」
本棚をガサゴソを漁って1冊の本を見つけると、パラパラとページをめくり始めた。
「何探してるの?」
「あった!」
そこには僕の元主の姿があった。
「へぇー、写真なんてあったんだ。」
懐かしいその姿を眺めてたら、
「うん、似てるね。でもどうしてそんな事気にしてたの?」
「以前、長曾根さんに言われたんだ。」
「ふーん、現代で子孫ですって言っても通用しそうだね。」
「もー、主ったら!でも、確かに元主に子供がいたら…」
「一応いる。っていう説もあるけど?」
「えっ?!」

主の話はこうだった。
試衛館の跡取り、長曾根さんの元主の本妻が連れてきた世話係が元主の事を好きだったらしい。
元主はその想いを拒む。その娘はその場で自害しようとしたらしい。
何とか一命を取りとめるが、2人を引き離す為にある男性に嫁いで行った。
元主に浮いた話が無いのは、それが原因で女性が苦手になったんじゃないか?
って主は言った。
僕はその時傍にいた訳じゃないから、分からない。
主に話の続きを促した。
それが、嫁いでかなり経っても娘に子供が産まれない。
心の問題だろうと言われて、旦那さんに心の整理をつけたいからと外出して当時京都にいた元主と会ったらしい。
それからしばらくして妊娠してるのが分かったらしいけど、その子供が実は元主の子供かも知れないと噂されているらしい。
「確かに、ずっと子供が出来なかったのにいきなり妊娠するなんておかしいと思うけどね。」
「でも、当時は不義密通は死罪だったから、あくまでも推論にしかならないかな?」
「ねぇ、主?本当にその子は…」
「ダメだよ?」
「えっ、まだ何にも言ってないのに。」
「安定の元主に対しての思いは強いからね。何を考えてるのかは分かる。」
「分かった。」
「じゃあ、引き続き手伝ってね。」
「はーい。」
そうやって、主の書類を手伝い続けた。
少しだけでもダメなのかな…?
そんな考えが頭に浮かんでいた。

「ねぇ、主。」
「うん、清光おかえりなさい。」
「ありがとう。安定見なかった?
部屋にもどこにもいないんだけど?」
「?!」
「清光!安定を探すように皆に伝えて!」
「え、どうしたの?」
「早く!」
「わ、分かった。」
いらない話をした。
安定が元主に対しての、気持ちが強いのを知ってたのに…
「主。」
「清光、伝えてくれた?」
「うん、でも何があったの?」
「実は…」
「…出陣の間を調べてくる!」
「お願い!ありがとう清光。」
戻ってきた清光の反応は想像通りだった。
「…」
「これ、政府にバレちゃヤバいんじゃないの?
俺を編成に入れてくれたら、直ぐに連れて帰るよ。」
「安定は、仮に元主の子供だったとしても、何かする子じゃない。
しばらく待っていよう。必ず帰ってくるから。」
「主がそう言うならその通りにするよ。」
「じゃあ、皆には蔵の奥にいたとでも言ってくれる?」
「出陣も安定が帰って来るまで休止かな?」
「りょーかい。」
主も大変だね、なんて笑いながら言って清光は部屋から出ていった。
安定は何かする子じゃない、そう信じるしか無かった。

3日後、僕が帰ってくると清光に強く腕を捕まれ主の部屋まで引っ張っていかれた。
「安定…おかえりなさい。」
安堵の顔で主が言う。
申し訳なくなって、思わずごめんなさいと謝っていた。
「戻ってきてくれたから、もういいよ。
それで?安定の気は済んだ?」
「うん…最初は誰の子か調べようとしたけど、知った所でその子は僕を扱えないし。それに今の主の傍で戦う事が、僕にとって1番だと分かったから!」
「…嬉しい事言ってくれるね、でも安定ありがとう。
貴方の主であることを心から嬉しく思う。」
「ちょっと俺を放っておいて、二人で絆深めて…
俺だってかなり苦労したんだけど?」
「清光の主である事も幸せだよ?」
「だったら、いーんだけどね。」
皆で笑った。
刀である時の僕を扱えたのは確かに元主、僕に似ている譲れない意志を持った人。
でも刀剣男士としての僕を扱えるのは、今の主だけ。
癖の強いで僕と清光、2人も扱える最高の主ー


後日談ー

「安定の事だから、その女性の子供をちゃんと調べてたんでしょ?
それでも分からなかったの?」
清光に問われた。
「うん…ねぇ、清光?」
「どうしたの?」
「僕達はこの姿のままで産まれたけど、人間ってなんで産まれたてって猿に似てるんだろう?」
「へ?猿?」
「元主に似た子が産まれて来ると思ってたんだけど…」
「産まれたては猿にそっくりで、誰の子か全然分からなかった…」
清光が笑いながら
「確かにそうだけど…安定、それじゃあ何しに行ったの?!」
「そ、そんな事言わなくてもいいじゃないか…。」
「確かに誰の子かは分からなかったけど、僕を必要としていないのは分かった。」
仮に子孫が本当に居たとしても、僕を必要としてくれるのは主だし、僕の主はただ一人だ。
改めてそう誓った。
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