「すみませーん。こっちに兼さん……和泉守兼定は来てませんか?あっ、僕は堀川国広です。よろしく」
この本丸ができてすぐに呼び出された。
兼さんはまだいなくて、主さんがにっこりと笑いかけてくれて、
「堀川国広、よろしくお願いね。」
そう言った。

それからしばらくは料理や内番等、お手伝いが主だった。
「堀川が来てくれて助かったよ。僕一人が毎日食事当番だったからね。」
「歌仙さん一人で皆さんの分をですか?
それは大変でしたね…」
「それもあるんだが、僕が毎日作っているとなぜか月末には資金繰りが苦しくなってしまうのでね。」
僕は苦笑いした。確かに歌仙さんは高級食材を使いがちだ。
「これからは、僕もメニューを考えますね!」
「ありがとう、とても助かるよ。」
食事の用意が終わったので、料理を持って運ぼうとする。すると、
「ねぇねぇ、僕にも手伝わせてよ。」
粟田口の乱さんに話しかけられた。
「じゃあ、まだ台所に料理が沢山ありますので…」
「分かった!」
「僕も手伝っても良いですか?」
「俺っちも手伝うぜ。」
粟田口の短刀達がわらわらと出てきた…
「皆、本当は手伝いたかったみたいなんだけど、あまりにも毎日歌仙さんの集中してる顔見てたら言い出しにくかったらしくてね。
堀川君が来てくれて良かった、ありがとう!」
「いえ、そんな。」
笑顔で返す。
そう言って貰えるのは凄く嬉しかった。
嬉しかったのだけれど、なぜか複雑な気持ちになった。

それから、粟田口の脇差や短刀と過ごす事が多くなった。
「国広って話しかけやすいんだよね。
それに何でもテキパキとこなしちゃうし、本当に凄いね!」
乱さんはいつもストレートに褒めてくれる。
それなのに、なぜいつも複雑な気持ちになるんだろう?
「あっ、出陣みたいだね。」
「ホントだ、あっ!歌仙さん。」
「丁度良かった。乱、堀川、主がお呼びだよ?」
「分かった!国広くん、行こう!」
乱さんに手を引かれて主の間へと向かった。

「という事で、皆さん出陣の用意をしてください。
部隊長は堀川国広、あなたにお願いします。」
「初出陣で、部隊長とは凄いねぇ。」
「いつも堀川国広は、隠れて鍛錬を積んでいました。
なので、部隊長を任せても良いかと。」
「なるほどね。」
「国広くん、やったね!」
「で、主?向かう先は?」
「北海道の函館へ。」
「函館…」
かつての主が果てた地…。
いや、こんな気持ちじゃダメだ!
部隊長としての任務をちゃんと果たして来るんだ!

出陣はそう難しくは無かった。
遡行軍もあらかた倒して、早く帰りたかった。
なのに、
「そこに居やがるのは誰だ?!」
何で出会ってしまうのか?
「あの…」
「なんだ、まだ童じゃねぇか。
ここは物騒だから近寄るんじゃねぇ!」
「は、はい。すいません!」
ちっ、と舌打ちしてその人は去っていく。
その腰には兼さんがいたー
「おかえりなさい。」
主に笑顔で迎えられる。
「堀川国広、皆、無事に帰って来てくれてありがとう。」
主は一人ずつに抱きついていく。
「特に堀川国広は、初出陣だったけど立派に隊長としての任を果たしてくれてありがとう。」
そう言って抱きつかれる。とても暖かい。
でも、なぜかその温もりを受け付ける気にはなれなかった。

それから、僕は皆としばらく距離を置いた。
なるべく一人で鍛錬を積んでいた。
勤勉。だとか、頑張り屋、だとか言われたがそんなつもりはない。
あの人と兼さんが頭から離れない。
僕は、僕も本当は一緒に行きたかったかったんだと気付いた。
そうしているうちに主に呼び出された。
一人で来て欲しいとの事だった。
「主さん?」
「国広?入ってもいいよ。」
「…失礼します。」
主さんの部屋は資料や本なぞが踏み場もなく敷き詰められていた。
「適当に座って!」
…どこに座ればいいんだろう?
適当に資料をまとめて、小さくなって座った。
「遠慮しなくてもいいよ。好きなだけ見て!」
主さんは両手を広げ広げる。
なんの事かと資料の一つに目を通すと、そこにかつての主がいた。
ほかにも兼さんの写真なんかもある。
全て元主と兼さんの物だ…
「実はね、新撰組の、国広の元主が好きで…」
「そ、そうなんですか…」
普通に好きだと言っても、限度がある…
ちょっとこれは…
「…国広が何を考えているか分かる…
ちょっと異常だよね。」はは、と力なく笑い
「国広が元気出ると思ったんだけどね…
この前の出陣からおかしいでしょ?」
「多分、元主と遭遇したのかなって…和泉守兼定も一緒だったんじゃないかとも思って」
この主さんは勘が良すぎるかも知れない。
「和泉守兼定はまだ来てくれないから、せめて」
写真だけでも。そう言ってしょんぼりとしていた。
「…いえ、凄く嬉しいです。
主さんありがとうございます…」
「…なんで無理するの?」
「えっ?いや、無理は…」
「国広はここに来てから気を遣ってばっかりだけど、笑いたくない時は笑わなくてもいいし、いくら主が用意した物でも」
「それでも、まだ見るのが辛いなら辛いって言えばいいんだよ?」
「…」
辛い。確かに気持ちの整理が上手くつかない時に、元主の、兼さんの姿は見たくなかった…
「私は大好きだから知ってるけど、国広は元主に似ているね。」
「?!」
「誰かを立てようとする所。国広が褒められたのなら素直に受け取ればいいのに、まだ来ない誰かを立てるために無理していない?」
この主さんは、僕をずっと見ていたのか?
「国広の元主も、自分が認めた男の為に一歩引いて立て続けた。その為に汚れ役も買って出た。」
「…」
「そういう所が凄くー」
「似ていません!!」
「僕は、元主に似ていない!
本当に似ているのは兼さんだ!!」
「ムキになった?でも、そういう所が似てるんだって。」
「兼さん…兼さんの方が…」
「ねぇ?元主に、似ていて何が悪いの?」
えっ…?
「和泉守の方が似ているのかどうかは今は分からないけど、どちらかだけが似ている事は無いと思うけど。」
「主さん…」
「和泉守が似ている部分もあって、国広が似ている部分もあるのは当然じゃない?
だから国広も似ていていいんだよ!」
「僕が…似ていますか?」
「うん、自分の人生全て捧げてその男の為に尽くした所が。」
主さんは、とても優しい笑顔で答えてくれた。
「ふふっ、でも兼さんの方が似ていますよ?」
頑固だなぁーと言いながら嬉しそうに1枚の写真を勧めてくる。
「いつか来るだろうその日の為に、頑張ってもいい。」
「でも、国広自身も自分の事を認めてあげないと周りの刀剣達に失礼だからね?」
「はい!主さん、ありがとうございます!
あの…この写真もらってもいいですか?」
「いいよー!」
「さぁ、問題解決したみたいだし片付けるか!」
「あ、僕も手伝います。」
そうして2人で元主や兼さんの話をしながら片付けたもんで、かなりの時間を要してしまった。

「国広くん!
350,510,350,350で3時間らしいよ?
今度こそ来たら良いのにね!」
「乱さんありがとう。じゃあ、鍛刀が終わるくらいに覗いてみるよ。」
そう、兼さんがいない間に、僕も成長したんだよ。
もう、元主には縛られていない。
色々話す事は多いけど、全部聞いてもらいたい。
鍛刀が終わるくらいに覗いて見ると、懐かしい光を感じた僕は思わず走り出していたー

ー後日談ー
部屋中に散らかった本を片付けながら、僕は主さんの話を聞いている。
主さんは段々熱が上がってきている。
僕が口を挟むのも、もうし訳無いと思うくらいに。
そして、僕がこの前出陣した函館の話が始まりー
気が付くと主さんはボロボロ泣き出していた!
「主さん!どうしたの?!」
「あー、ごめん。大丈夫、大丈夫だから。」
皆には内緒にしてて欲しいと頼まれた。
何でも、全ての刀剣達を平等に扱いたいからだって。
そんな事しなくても、皆は主さんの事大好きなのに…
もちろん、僕も同じこの不器用な主さんは僕も大好きになっていた。
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