それは、ちゃんとした本丸に呼ばれる少し前。
俺は本丸ではない異世界で色素のぬけた弟に出会った。
俺は完全では無く。『とうえい』と言う名の写しだった。
その世界で。
「弟を殺した元主をなぜ信用できよう!
兄者は現に俺を壊そうとしている。
二振り作られただけで兄と名乗る資格はい。」
と斬りかかってくる。
僕が今まで不安に思っていたしこりをこの世界で指摘された。
剣技は続き、弟にヒビが入る。
その為だけに呼び出されたのだが、流石に心という物が痛かった。それなのに
「兄者・・・この世界でも俺を葬るのか?やはり信じてはいけないのか?」
弟は涙を流していた。そして役に立たないと理解された主の泥の闇に飲み込まれていった。
僕にもヒビが入る。そこから光が溢れていく。
それはそうだろう。99%本物であったとしても、1%がコピーであればそれは世界の歪みを生み出してしまう。
消えなくてはならない存在だからだ。
「膝丸、ごめんね。僕のせいで傷ついていたんだね。」
そして光と共に僕は消えた。

暗闇でいつも呼ぶ声がする。
でも、その声には答えたくは無かった。
僕らも拒否権があって良いはずだ。
しかし、強力な力に引っ張られ顕現した。
目の前に弟がいる。
「兄者!!」
いきなり抱きつかれたが、心は痛い。
そっと弟を引き剥がして主に向き直る。
「源氏の重宝、髭切さ。君が今代の主でいいのかい?」
主に笑いかけた。

その後弟に本丸を案内される。
「兄者、ここが客間だ。たが、皆が集まって話したりする事が多いのでここだけ最近の改築したのだ。
綺麗であろう?」
「ふーん。」
「ここの庭はは自給自足の為畑も設けている。
畑の管理は主に桑名江がしている。」
「へえ。」
「そして、ここが部屋だ。
主は兄者が来た時の為に2人部屋にしてくれていたのだ。」
「あの、…ひ、ひ。」
「膝丸だ。兄者!」
「そう、兄者って呼ぶの辞めてくれないかな?」
「兄者、どうしたのだ?」
「それ!辞めてくれない?」
「二振りで献上されたからってな兄とか弟とかって馬鹿らしくない?
僕はそういうものに縛られたく無いんだよ。」
「兄者・・・」
「だから、それ!」
「兄者は何があっても俺の兄者である事に変わりは無い!
だから俺は兄者と呼び続ける!」
「…勝手にしなよ。」
そう言って部屋を出た。
主にキチンと話さなければ。
僕の心が持たない。
憧れや親しみの目で見られてしまっても、僕は前の世界でも弟を壊そうとして。
元主も弟を殺した。やはり元主に似るんだろうか?
僕が居るせいで弟を二度とあんな目にはあわす事は出来ない。
主の部屋の前に立ち呼びかける。
「主、ちょっといいかい?」
「髭切?いいよ。入って。」
そうして部屋に入ってこの本丸の前に行った世界を話し出した。

「そう言う事だから。」
「髭切!待って!」
部屋から出ると、弟がいた。
「兄者…」
「部屋は安達のよしみで鶴丸国永の部屋に行く事にしたよ。」
「俺は!俺は兄者の弟だと認めて貰えるまで頑張るとする!」
「勝手にしなよ。」
わざと突き放して話す。
もう、お互い兄弟と言う絆に縛られない方がいい。
その方が弟も幸せになれるはずだ。
僕も汚名を着なくても済む。
途中で粟田口の子らに会ったので鶴丸国永の部屋を聞いた。

「まさかの源氏の兄弟が喧嘩とはな!」
「喧嘩じゃないよ?もう、へたな絆に、縛られたくないんだ。」
「喧嘩よりもタチが悪そうだな。」
「でも、ずっと避ける事は出来ないと思うぜ。」
「分かっているよ。でもしばらくでもいいから弟と離れたいんだよ。」
「そうか、ま俺は大歓迎だいつまでも居てくれても構わないぜ。」
「ありがとう。鶴丸国永。」
「おっと、早速お見えになったぜ。」
「会いたくないと追い返してくれるかい?」
「分かった。」

「よお、膝丸。髭切に用事か?」
「鶴丸国永か。兄者に謝罪したくて来たのだが。」
「残念だが、膝丸は通すなと言われてるんでな。
喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩以前の問題だ。」
「でも、今日は諦めてくれ。」
「分かった。また改めて来る事にしよう。」
「兄者ー!また来るからな!!」
大声で言わなくても聞こえてるのに。
「なぁ、流石に膝丸が可哀想に思えたが。」
「いつになるのかは分からないけど、弟が諦めてくれるまで。
そうだな・・・弟の名前をちゃんと覚えられる頃には兄離れしてくれると思うんだ。」
「そうだな。かなり時間はかかりそうだが。」
「酷い言われようだね。」

それから毎日弟は部屋を訪ねてくる。
畑当番や馬当番の日も足を運んでくる。
こちらが拒んいるのに、どうして付きまとおうとするんだ。
ある日は乱藤四郎が来た。
「膝丸に頼まれて、爪のお手入れしにきたよー!」
「断ってもいいかな?」多少威圧して笑顔で答える。
「だーめー!さ、そこに座って」
「しょうがないなぁ。」場数を踏んでいるんだろう。
多少の威圧でも軽く流される。
「はい、ここに手を置いて。」
言われる通りにすると乱が爪ヤスリで爪を整え始めた。
「髭切は膝丸が嫌いなの?」
単刀直入だなぁ。
「嫌いって言う訳では無いよ。だから兄弟の絆を無くしてお互い自由にしてればいいと思ってね。」
「それ、弟が聞いたら悲しいね。
僕もいち兄に、そんな事言われたら泣いちゃうかも?」
「そういうものかい?」
「そういうもんだよ。ねぇ、髭切の爪綺麗だしネイルしてもいい?」
目をキラキラさせて聞いてくる。
「ああ、いいよ。」
「やった!こんな事もあるかも知れないと思って持っいてきてたんだよね。」
「そうなのかい?じゃあお願いするよ。」
爪に綺麗な白色が塗られていく。
「ラインストーンも落とそう。ね?これ膝丸に見せてみない?」
「残念だけどその手には乗らないよ?」
「膝丸、喜ぶと思うんだけどなぁ。」
「気が向いたら見せる事にするよ。」
「それを聞いて安心したよ。髭切も膝丸が好きなんだね。」
「・・・」

ある日、乱が部屋に入って来て初陣だと呼ばれた。
嫌な予感はするが、主命は流石に断れない。
「主、出陣と伺ったが。」
「兄者では無いか、そうか。共に出陣なのだな!
俺は嬉しいぞ。」
「主、弟が出陣するとは一言も聞いていないが。
僕は辞退してもいいかな?」
「兄者!」
「許しません。主命です。」
やはり我ら2人の問題を、解決しようとこの編成になったのだな。
「これより部隊長膝丸、髭切、一期一振、乱藤四郎、今剣、岩融に出陣してもらいます。」
「時代は鎌倉、1205年。源三代目将軍の時代です。」
「よしつねこうはもういない時代ですよね?」
三代目?てっきり、壇ノ浦辺りに飛ばされたかと思っていたのだけれど。
「三代目将軍を生かし北条の時代にさせまいとする動きは確かにあります。よろしくお願いします。」
「「「「「「では、出陣します!」」」」」」

「ここは何処だ?あ、兄者足元に気をつけてだな。」
大倶利伽羅では無いが、弟と馴れ合うつもりはまだ無いのだけれど・・・
「・・・そろそろ僕に構うのを辞めてくれないかな?」
「兄者・・・」
「ほらほらー、いつ敵が出てくるのか分からないんだから気を抜かない。
揉めてる時間はないよー!」
「乱の言う通りだと私も思いますが。」
「分かったよ。話くらいはするように心掛けるよ。」
そうでないと連携が取れないしね。
「兄者!」
「膝丸さんどうして泣いてるんですかー?」
「いや、今剣これは嬉しいからだ。」
辺りから殺気がする。部隊長が泣いててどうするんだ。
手間がかかる。
「どうやら囲まれてしまったみたいだね。」
「なに!よし、痕跡を追跡だ。そして包囲する。あそこか!皆魚鱗陣で迎え撃つぞ!!」
「やあやあ、我こそは源氏の重宝、膝丸なり!」

「思っていたより呆気なかったね。」
「私も些か拍子抜けしているよ。」
「そこに居るのは誰?もしや、私を狙いに来た刺客ですか?」
「僕達は刺客なんかじゃないよー。お兄さん誰?」
「それにしては珍妙な格好をしているもの達だな。
いや、刺客でないならいい。」
「私は源実朝と申します。」
「?!」
「貴方が・・・頼朝公の息子でしたか・・・。」
「父をご存知なのですか?」
「うむ、鎌倉幕府を開いた立派な御仁ですからな。民百姓も知れる所ですぞ。」
「そうか、父は賞賛されていたのですね。良かった。名声を確固たる物にしようと弟殺しと呼ばれていると思っておりました。どなたかは存じませんが、そう思ってくれてありがとう。」
又、弟を殺しか。もう辞めてくれ。
「僕はあなたの父親が立派だとは思ってませんが。」
「兄者!?」
「いやはや手厳しい。私も幼い頃はそう思っていました。しかし余命も少ないであろうこの身でやっと真実が分かったのです。」
「それは、どういう事だい?」
「父は、形だけの将軍でした。勿論私も。全ては北条が源氏を消し去ろうとしての企み。」
「私も将軍の地位を欲した訳ではありません。将軍になったところで北条の傀儡である事に変わりません。」
確かに妻の方が強かったし後ろ盾があった記憶はある。
「父親も、貴方も、北条の傀儡なのかい・・・?」
思わず将軍の腕を掴む。
「初めて会った方にこんな事をお話するなんて、本当にどうかしています。忘れてください。」
「兄者・・・そろそろ腕を離さなければ。」
促されて腕を離す。
弟の元主を殺したくは無いのに、洗脳されていたと言う事なのか。
本当に?いや、元の主の事だから真実だろう。
そして、その息子まで狙われているのか・・・
「そなたらに慰められるとは思わなんだ。ありがとう。そろそろ私は戻ります。」
「待って!息子の貴方は父親や自分がそんな目にあったのに悔しくは無いのかい?」
僕は兄弟なのに、弟を殺した元主が憎い。
そのせいで今苦しんでいるのに!
「私は、武芸に向いていません。それに北条相手に勝てる程の軍を所要してもいません。」
「出でいなば 主なき宿と なりぬとも 軒端の梅よ 春を忘るな」
「あなた達と出会った事は忘れません。」
弟は僕が来るまでに相当鍛錬を詰んだのだろう。
そしてこの歴史を知っていたのだろう。
僕は、この時代を忌み嫌った。
鬼切丸と呼ばれていた方が幸せだった。
でも、弟は全て受け入れる事ができる強さを持っているんだと感じた。
僕は・・・これからどうすればいいのか?

「はい皆おかえり。」
主に抱き締められるが、上手く笑顔で返す事は出来なかった。心の整理がつかない。
「主、兄者と2人で話をしたいのだが。」
膝丸がとんでもない提案をした。
でも、そろそろ僕も向き合わ無ければいけないのかも知れない・・・
「そうだと思った。私も立ち合っていい?」
「お願いする。」

そうして弟と主と3人で向き合う。
「兄者。」
「なんだい?」
「以前に出会った俺は兄者を責めてしまったらしいが、俺は違う。
唯一の兄弟の兄者が本当に誇りなのだ。兄者が好きだ!」
弟に告白されてしまって笑ってしまう。
こんな僕が誇りだって?心の整理一つろくに付けられないのに。
「ストレートなのは変わってないんだね。
主が何を言いたいのか、今回の出陣で分かった。
僕の元主の意思で弟を殺したんでは無いと言う事だね?」
「でも、決断を下したのはやっぱり元主なんだよ。」
「兄者・・・」
「でも、少し考えは変わったかな?
僕の態度でも何も変わらずに慕ってくれる膝丸はとても強くなったんだね!」
そう、どちらが兄だか分からないほどに・・・?
弟が何故か泣いている。変な事は言ってない筈だけど。
「兄者!!」
「僕が来るのが遅すぎたのかな?」
もっと早くに来て、こうして弟と向き合っていたら何かが違ったのかも知れない。
「違う場所で寄り道しちゃったからね。」
「そうだね。でも、僕も弟とこれから向き合っていく事にするよ。」
「あ、兄者・・・!」
「膝丸、泣かないで。」
「あ、主こそ泣くではない。」
優しい弟、優しい主。少しずつ僕も変わっていけるだろう。
「ふふ、僕はいい本丸に来たんだね。凄くいい所だ。」
「これから兄者の鍛錬にも毎日付き合っていくぞ、だから2人で強くなろう兄者!!」
「ありがとう・・・え、とひじ・・・」
「兄者、せめて名前だけでもちゃんと覚えて欲しいのだが!」
「僕が覚えなくても、いつも傍に居てくれるんだろう?
じゃあ覚える必要無いじゃないか。」
そう、これからは兄弟の絆を深めて行こう。
「兄者・・・!」
「兄者、俺はなにがあっても兄者の為に頑張るぞ。」
「膝丸が世話を焼いてたら髭切が弟みたいになっちゃうね。」
「僕はそれでも構わないよ。」
「いや、兄者は兄者で居てもらわないと困る。
なんたって、自慢の兄者なんだから!」
やはり弟は可愛いものだな。
自然と笑みが零れていた。
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