「主はいるか?」
「ん?膝丸どうしたの?」
「そろそろ兄者を本丸に迎えたいのだ。」
「そっか、そうだよね。膝丸はずっと髭切待ってるんだもんね。」
「じゃあ鍛刀しようか?
はい、この御札持って行っていいよ。」
「この札は!主いいのか?」
「うん。」
「ありがたい」

俺と兄者は源氏を繁栄させるものとして、贈られた。
なぜ二振りだったのかは分からないが、兄と呼べる存在がいるのは嬉しい事だと、この本丸に来て思えた。
粟田口、堀川、左文字等の兄弟を見てきた俺は、ずっと兄者が顕現されるのを心待ちにしていた。
俺には主だけではなく誇らしい兄者がいる。
「兄者、この札で会えればいいな。」
札を炉にくべた。

3時間を過ぎた頃だろうか?
心配になって鍛刀部屋に足を向ける。
「あ、膝丸も気になって来たんだ。」
「ああ、主も気にしてくれるのか。本当にありがたい。」
「粟田口の皆も一期一振くるの心待ちにしてたの知ってるからね。」
「膝丸もそういう気持ちなんでしょ?」
「少々落ち着かないが、そんな感じだ。」
「ソワソワするんだ。」ふふ、っと主は笑う。
「多少気恥しいが、兄者に会いたい気持ちは粟田口達と同じであろうな。」
「兄者は本当に凄い刀なんでな。」
多少気が高ぶっていたのか、兄者の武勇伝を話し出す。
この話も何度も主にはしている。が、毎度嬉しそうに聞いてくれるのでつい話してしまう。
と、しばらくすると炉が光りだした。
この光、姿形に覚えはある…
「兄者!!」
感極まって兄者に抱きついてしまった。
無表情で体を剥がされる。
「兄者・・・?」
兄者は主に向き直って
「源氏の重宝、髭切さ。君が今代の主でいいのかい?」
そう笑いかけていた。

主に本丸の案内と部屋にも案内する役を仰せつかった。
「兄者、ここが客間だ。たが、皆が集まって話したりする事が多いのでここだけ最近の改築したのだ。
綺麗であろう?」
「ふーん。」
「ここの庭はは自給自足の為畑も設けている。
畑の管理は主に桑名江がしている。」
「へえ。」
「そして、ここが部屋だ。
主は兄者が来た時の為に2人部屋にしてくれていたのだ。」
「あの、…ひ、ひ。」
「膝丸だ。兄者!」
「そう、兄者って呼ぶの辞めてくれないかな?」
「兄者、どうしたのだ?」
「それ!辞めてくれない?」
「二振りで献上されたからってな兄とか弟とかって馬鹿らしくない?
僕はそういうものに縛られたく無いんだよ。」
「兄者・・・」
「だから、それ!」
「兄者は何があっても俺の兄者である事に変わりは無い!
だから俺は兄者と呼び続ける!」
「…勝手にしなよ。」
そう言って部屋を出ていった。
どうしたと言うのだ?物であった頃から兄弟仲は悪くはなか・・・そうか。
とりあえず、主の所に相談と報告に行ってみるか…。

「そう言う事だから。」
「髭切!待って!」
ちょうど兄者が主の部屋から出てきた所だった。
「兄者…」
「部屋は安達のよしみで鶴丸国永の部屋に行く事にしたよ。」
「俺は!俺は兄者の弟だと認めて貰えるまで頑張るとする!」
「勝手にしなよ。」
兄者の背中を見送って、主の部屋に入った。
「主、もしかして兄者は前の主の事を気にしているのでは無いか?」
「あのね、ここに来る前にここでは無い所で顕現したそうなの。」
「違う本丸でか?」
「本丸でも無いみたい。」
「写しとして召喚されたとか。」
「写しがなぜ兄者の心を宿したのだ?」
「限りなく本物に近い物だろうね。でも、世界はそんな矛盾を許すわけが無いから壊れたらしい。」
「兄者がか?!」
「壊れたんじゃなくて世界のバグが消えたって言った方がいいのかな?」
「ますますもって分からん。」
「肝心なのはここからなんだよね。
その世界に膝丸も居たけど、闇堕ちしていたらしくて・・・」
「俺が兄者になにか言ってしまったのか?」
「元主を殺した兄なんていらない。みたいな事を。」
「・・・」
「膝丸は今どう思ってるの?」
「兄者を責めたと言うより、なぜ俺達兄弟の仲を邪魔する様な行為に及んだ兄者の主に腹を立てていた頃はあった・・・
いや、俺も兄者を憎んだのか?」
「だが、主の部屋の書物を読んでいくうちに兄者の元主ではなく、その妻のせいだと気がついた。」
「じゃあ、その世界に現れた膝丸はまだそれを知らなくて髭切に斬りかかったのか・・・」
「俺が兄者に斬りかかったのか?!
こんな事をしてられん、すぐに兄者に謝らなければ!!」
「膝丸!」
主の声を背にして兄者の元へと向かった。

「よお、膝丸。髭切に用事か?」
「鶴丸国永か。兄者に謝罪したくて来たのだが。」
「残念だが、膝丸は通すなと言われてるんでな。
喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩以前の問題だ。」
「でも、今日は諦めてくれ。」
「分かった。また改めて来る事にしよう。」
「兄者ー!また来るからな!!」
来る日も来る日も兄者の元へと通ったが、完全に俺は避けられているようだ。
「膝丸、大丈夫?」
「乱か。俺は大丈夫だ。」
「そっか、僕もいち兄にずっと避けられたら辛いからね。だから膝丸もそうは言っても辛いだろうと思ったんだけど。」
「俺は兄者に対しての気持ちは変わらない。
兄者の元主へは疑問を抱いたが、兄者が悪い所はひとつも無い。」
「膝丸は強いね。それを聞いてたら僕も兄孝行したくなっちゃった。
いち兄の爪綺麗にしてこようかな?」
「乱は優しいのだな。そうだ、ついでに兄者の爪もお願いしてもいいか?」
「分かったよ。その後に膝丸もしてあげるね。」
「礼を言う。」

「って感じだね。」
「で、髭切と話したの?」
「僕が感じた事は、弟を葬った主を見てきた事が忌々しいから、兄弟と言う関係が怖いみたいだね。」
「鶴丸に言っても庇うばっかりで会わせてくれないしなぁ・・・
強硬策をとろうか。」
「出陣だね!僕も編成してよ。」
「はいはい、分かった。じゃあこのメンバー呼んで来てくれる?」
「え?本当にこのメンバーでいいの?」
「うん。お願いするね。」


「主、出陣と伺ったが。」
「兄者では無いか!そうか!共に出陣なのだな!
俺は嬉しいぞ。」
「主、弟が出陣するとは一言も聞いていないが。
僕は辞退してもいいかな?」
「兄者!」
「許しません。主命です。」
「これより部隊長膝丸、髭切、一期一振、乱藤四郎、今剣、岩融に出陣してもらいます。」
「時代は鎌倉、1205年。源三代目将軍の時代です。」
「よしつねこうはもういない時代ですよね?」
「主、初代将軍では無いのか?」
「三代目将軍を生かし北条の時代にさせまいとする動きは確かにあります。よろしくお願いします。」
「「「「「「では、出陣します!」」」」」」

「ここは何処だ?あ、兄者足元に気をつけてだな。」
「・・・そろそろ僕に構うのを辞めてくれないかな?」
「兄者・・・」
「ほらほらー、いつ敵が出てくるのか分からないんだから気を抜かない。
揉めてる時間はないよー!」
「乱の言う通りだと私も思いますが。」
「分かったよ。話くらいはするように心掛けるよ。」
「兄者!」
「膝丸さんどうして泣いてるんですかー?」
「いや、今剣これは嬉しいからだ。」
「油断してしまったね。どうやら囲まれてしまったみたいだね。」
「なに!よし、痕跡を追跡だ。そして包囲する。あそこか!皆魚鱗陣で迎え撃つぞ!!」
「やあやあ、我こそは源氏の重宝、膝丸なり!」

「思っていたより呆気なかったね。」
「私も些か拍子抜けしているよ。」
「そこに居るのは誰?もしや、私を狙いに来た刺客ですか?」
「僕達は刺客なんかじゃないよー。お兄さん誰?」
「それにしては珍妙な格好をしているもの達だな。
いや、刺客でないならいい。」
「私は源実朝と申します。」
「?!」
「貴方が・・・頼朝公の息子でしたか・・・。」
「父をご存知なのですか?」
「うむ、鎌倉幕府を開いた立派な御仁ですからな。民百姓も知れる所ですぞ。」
「そうか、父は賞賛されていたのですね。良かった。名声を確固たる物にしようと弟殺しと呼ばれていると思っておりました。どなたかは存じませんが、そう思ってくれてありがとう。」
「僕はあなたの父親が立派だとは思ってませんが。」
「兄者!?」
「いやはや手厳しい。私も幼い頃はそう思っていました。しかし余命も少ないであろうこの身でやっと真実が分かったのです。」
「それは、どういう事だい?」
「父は、形だけの将軍でした。勿論私も。全ては北条が源を消し去ろうとしての企み。」
「私も将軍の地位を欲した訳ではありません。将軍になったところで北条の傀儡である事に変わりません。」
「父親も、貴方も、北条の傀儡なのかい・・・?」
兄者が将軍の腕を掴む。
「初めて会った方にこんな事をお話するなんて、本当にどうかしています。忘れてください。」
「兄者・・・そろそろ腕を離さなければ。」
「よしつねこうは生きていますよ!僕はそう信じています!」
「義経公は、最後まで貴方の父親を信じていたと思います。貴方も強く生きてください。」
「そなたらに慰められるとは思わなんだ。ありがとう。
そろそろ私は戻ります。」
「待って!息子の貴方は父親や自分がそんな目にあったのに悔しくは無いのかい?」
「私は、武芸に向いていません。それに北条相手に勝てる程の軍を所要してもいません。」
「出でいなば 主なき宿と なりぬとも 軒端の梅よ 春を忘るな」
「あなた達と出会った事は忘れません。」
「我らも将軍殿と出会った事は忘れません。」
「ありがとう。」

「はい皆おかえり。」
いつものように主は皆を抱きしめている。
笑顔で主に答えるが、兄者だけは困惑の瞳のままだった。
「主、兄者と2人で話をしたいのだが。」
「そうだと思った。私も立ち合っていい?」
「お願いする。」

そうして兄者と主と3人で向き合う。
「兄者。」
「なんだい?」
「以前に出会った俺は兄者を責めてしまったらしいが、俺は違う。
唯一の兄弟の兄者が本当に誇りなのだ。兄者が好きだ!」
「ストレートなのは変わってないんだね。
主が何を言いたいのか、今回の出陣で分かった。
僕の元主の意思で弟を殺したんでは無いと言う事だね?」
「でも、決断を下したのはやっぱり元主なんだよ。」
「兄者・・・」
「でも、少し考えは変わったかな?
僕の態度でも何も変わらずに慕ってくれる膝丸はとても強くなったんだね!」
「兄者!!」
「僕が来るのが遅すぎたのかな?」
「違う場所で寄り道しちゃったからね。」
「そうだね。でも、僕も弟とこれから向き合っていく事にするよ。」
「あ、兄者・・・!」
「膝丸、泣かないで。」
「あ、主こそ泣くではない。」
「ふふ、僕はいい本丸に来たんだね。凄くいい所だ。」
「これから兄者の鍛錬にも毎日付き合っていくぞ、だから2人で強くなろう兄者!!」
「ありがとう・・・え、とひじ・・・」
「兄者、せめて名前だけでもちゃんと覚えて欲しいのだが!」
「僕が覚えなくても、いつも傍に居てくれるんだろう?
じゃあ覚える必要無いじゃないか。」
「兄者・・・!」
「兄者、俺はなにがあっても兄者の為に頑張るぞ。」
「膝丸が世話を焼いてたら髭切が弟みたいになっちゃうね。」
「僕はそれでも構わないよ。」
「いや、兄者は兄者で居てもらわないと困る。
なんたって、自慢の兄者なんだから!」
兄者は笑顔で頷いてくれた。
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