インターフォンで話す声が聞こえてくる。
もう2週間経ったんだと、時の速さにため息が出る。
しかしあのオッサンも飽きもせずによく通うもんだ。
悪い奴では無い、そうなんだが僕にも学校に行けない理由がある。
だが、学年を進級してから半年間ほぼ隔週、登校を促す訳でもなくて世間話をしに通うんだから余程の暇人なのか?
そうしているうちに、扉がノックされる。
「入っていいよ。」
「よっ、久しぶりだな!」
笑顔で担任である男はズカズカと部屋へ入ってくる。
「先生も暇人だね。」
思っていた事を口に出す。
「いや、今週は忙しかったんだよ。
同じクラスの女子が亡くなってな。
それでもここにちゃんと通う俺を褒めて欲しいもんだな。」
「ふーん、そうなんだ。
でも先生はどうせゲームしに来たんだろ?」
「お前なぁ・・・、担任として生徒を心配してる気持ちが伝わらないのか?」
「そういう事はゲームに勝ってから言ってくれよ。
死ぬ程負けず嫌いだから、僕に勝つ為に通ってる癖に。」
勿論、本心ではない。
先生とゲームをするのが楽しくなってきている。
だが、その一面を見せる訳にはいかない。
「まぁ、そういう事でもいいよ。
さぁ、この前の続きするか!」
そうやって恒例の如くこの変わった担任とゲームに勤しんだ。

「拓海、拓海?」
しばらくすると、下の階から声が聞こえてくる。
「お母さんが呼んでるぞ?返事しなくてもいいのか?」
「…」
先生が扉を開けて代わりに返事をする。
「あ、先生。
いえね、遅くなったので先生に夕食を食べていって頂きたいと思いまして。」
「あ、いや大丈夫ですよ。
お気を遣わせて申し訳ありません。」
「でも、もう用意致しましたの。」
「そうですか、すいません。では、いただいて帰ります。」
「拓海、ご飯だとよ。ゲームはおしまいだな。」
「今日も勝てなかったね。」
「今度は修行し直して絶対に勝つからな!」
「あ、負け犬の遠吠えだ。」
「何だと?!ムカつくガキだな!」
そうふざけあって下に降りる。
「あら、楽しそうね。拓海の機嫌良さそうな顔を見れてお母さんも嬉しいわ。」
「…」
「…、拓海も先生もさぁ、座って。」
そうやっていつもの会話が始まる。
「昨日も拓海と一緒に病院に行ってきましたの。
拓海が何も言わないから病院の先生も困ってしまわれて…私が代わりに生活情報を説明してきたんです。」
「そうなんですか、お母さん大変でしたね。」
「いえ、可愛い我が子の為ですもの。
拓海の鬱病が治る為なら何でも致します。」
「本当に優しいお母さんですね。」
「そんな事ないですわ。当然です!」
「本当に凄いですよ。」
これがこの女の正体。
幼い頃体が弱かった僕は、献身的に尽くす母親に感動した。
だが、大きくなるにつれ丈夫な体になってきた僕をある日階段から突き落とした。
当然パニックになったが、その怪我した僕にまた献身的な看護をする。
あれは間違いだったのかと思った。
それがいけなかった。
それから何度か同じ目にあい。
母親がしたと訴えたが誰も信じてくれず、怪我をする位なら。と、病気のフリをして部屋に閉じこもっている。

自分の身を守る方法が当時はこれしか無かった。
それでも薬を多めに食事に入れたれたりして、救急車で運ばれる日々は続いた。
そして、現在の担任に代わってからは自己顕示欲は満たされたのか何もされずにいる。
分かってて通ってるんだか、違うのかは全く読めないが音無先生は恩人である。
その恩人がいきなりこんな事を言い出した。
「先日、クラスでグループLimeを作ったんだがな。
拓海も入れ。」
「は?」
「あら、拓海良かったじゃない!お友達ができるかも知れないわね。」
「QRコード出してくれるか?」
どうしたらいい?いや、でも母親は喜んでいた。
だとすると…
「はい。」
「よっしゃ、あんがとな。
じゃあ招待しとくな。」
「うん…」
そうやって担任は一抹の不安を残して帰って行った…。
「拓海?」
振り返ると、表情が強ばった母親がそこに居た。
「変なお友達とかに虐められたりするといけないから、お母さんにもちゃんと見せてね?」
「うん…」
「拓海は病気なんだから、少しの事でも傷つくでしょ?拓海が傷つくのはお母さんは見たくないの。」
「…」
「だから必ず見せること、分かったわね。」
やっぱり僕には自由など無いらしい。

アプリを開くと予想以上に歓迎の声があった。
おいおい、全く会った事が無い人間をこんなに歓迎するなんて、変わったクラスだな。
挨拶位はしても大丈夫だよな…?
『はじめまして、よろしくお願いします☺』
『拓海君だよな?先生から話は聞いてるよ!
ゲームめちゃくちゃ強いらじーじゃん。
俺らとも対戦してくれよ‪✌︎('ω')✌︎』
『いや、僕は別に強くないよ?先生が弱いだけw』
『今度皆で対戦しよーぜ!
勿論標的は音無にしてwww』
『お前ら大人バカにすんのもいい加減にしろよ?
今度の期末全員赤点にするからな?』
『うわぁ、先生!職権乱用!!
生活指導に屋上でタバコ吸ってんのバラすよ?』
『教師を脅迫するな!』
『とにかく、拓海?
皆お前を待っているんだから良かったら一度学校に来いよ。』
『待ってるよ!』
『待ってるぜ!』
学校か…天井を見上げた。
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