目覚めた時は病院だった。
傍には刑事さんがいて、詳しく事情を話して身元を引き取る。保護者を呼び出してくれとの事だったが、ママは電話に出なかった。
他に頼る大人はいない。仕方ないとアイツを呼び出した。
慌てて来たのだろう、息を弾ませてやってきた。
刑事さんと共に部屋の外に出て話をしている。
経緯とか話してるんだろう。来てくれて助かった。
刑事さんがこちらへ来る。
「貴女の持っていたレコーダーが決定的な証拠になると思います。
後はナイフから指紋が出なければ罪に問われる事は無いと思います。」
じゃ、お大事に。と刑事さんが出ていく。
後ろにいる奴がこちらを睨んでいる。
「相手に会うなと言ったはずだが。」
「いや、こんな事になるとは思ってなかったから…」
「それ以前に約束を破っているのは誰だ。」
「それは、まぁ…ごめん。」
「でも、骨折だけで済んで良かったよ。」
「ナイフで顔でも切られてたら嫁に行けなくなるからな。」
「何?貰ってくれるんじゃ無かったの。」
「笑い話にするな。」
「はい…」
「で、相手の状態は?」
「今は意識不明の状態だそうだ。」
「そう。…ねぇ、ママは傷ついて無いかな?」
「それは分からねぇな。」
「受け止められるのかな?連絡がつかないから不安しかないの。」
「そのうち冷静になれるだろう。今はそっとしておいた方がいいだろ。」
「そうだよね…」
心配だけどそうするしか無いか。
「とりあえず、俺は一旦学校に帰るぞ。」
「慌てて来たからな。授業が終わったらまた来る。」
「はぁーい。」
じゃあ少し寝ていようかな?
そうして眠りについた。
少しすると、誰かの気配を感じた。
椅子に座ってる。アイツかな?と薄目を開けるとママだった。
泣いている。大丈夫だって伝えないと。
誰かが話し掛けている。アイツかな?
そう思いながらも又眠ってしまった。
起きるとアイツがいた。
「起きたか。」
「ママは…?」
「起きてたのか、事情を話して今相手の部屋に行っている。」
「後悔していたよ。自分のせいで傷つけてしまったと。」
「ママが?」
「色々あったが、やっぱり母親なんだろ。顔を真っ青にしていたぞ。」
「そっか、」
泣きそうになったので顔を手で覆う。
そっか、ママは私の心配をしてくれたんだ…
目頭が熱くなってくる。
「ちょっと外に出ててくれるかな?」
「…分かった。カーテンは閉めておくからな。」
「ありがと。」
涙が頬を伝う。
ずっと私を拒絶していた母親が、やっと受け入れてくれた。
これからは親子2人でやっと過ごす事ができるんだ。
「あ、どうも。」部屋の外で声が聞こえる。
ママが戻って来たのかもしれない。
「ママ、」
「何で!!」
胸元に鋭い痛みが走る。
「なんで!!」
続いてお腹。
「アンタのせいで私が全て失わないといけないのよ!!」
又胸。
ママがなにか鈍い光の、ナイフを持っている。
「アンタなんか産まなければ良かった。これ以上私から何か奪うくらいなら!」
アイツが駆けつけてママを止めようとしている。
あ、頬を切られた。綺麗な顔をしてるのに…
ママが完全に羽交い締めにされて、看護婦が駆けつけてる。
もう多分無理だよ。
「ママ…」ちゃんと見て…
「私はここに…」いるんだよ?
アイツに伝えたいけど、もう口が動かない…
お嫁さんになってあげても良かったって伝えたいのに…
ごめんね…

陽菜乃が最後に何を訴えたかったのかもう分からない。
喪主をするはずの母親は放棄して、男の元に通い続けている。
俺が親の力を借りて陽菜乃の喪主に名乗り出た。
そして、葬儀が終わり。納骨も終わり、陽菜乃の全ては無くなった。
この骨の欠片以外は。
俺は、学校の屋上に移動して陽菜乃の指定席に立つ。
俺が、教師を首になったとしても。
陽菜乃に嫌われてしまったとしても。
連れてどこかに行っていたら…
いや、そんな事は出来ない。
アイツの母親に対しての愛情を踏みにじる事が俺には出来ない。
幸せになれる結末は最初から用意されて無かったのだ。
「クソっ!なんで今日はこんなにも。」
こんなにも綺麗な青空なんだろうか。
やけにタバコが美味く感じた。
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