1

ある日、時の政府という名の差出人から封書が届いた。
なんでも私が審神者の適合者だという合格通知だった。
詳しい説明を見てみる。
日本刀や槍薙刀の付喪神を、歴史修繕主義者とやらが歴史の改竄を防ぐ為に付喪神を派遣していく。
ざっくり言えばそういう事だった。
これって、刀剣乱舞のゲームそのものなんだけどどういう事?
実際にゲーム中で刀剣男子のレベルを上げて時間遡行軍と戦っているのだけれど。
本当に同じ事をするの?
「やばっ。」
私が世界を守れるなら喜んで引き受ける。
待ちに待った2.5次元にいけるんだから。
高揚感があった。ゲームや漫画の中に自分が行ける、そして実際に守る事が出来るんだ。喜んで引き受けた。

元々、母が幼い頃に亡くなりずっと父子家庭だった。
中学に入った時に父親が再婚し、新しい母とはそりが合わず次第に引きこもりに。
学校にも行かずにいわゆるニートと言う存在だ。
それが素質があったと選ばれたんだ!
「それで、どうすればいいんですか?」
「初期刀と先ずは鍛刀をして下さい。」
「初期刀って5振りの中から選ぶんじゃないの?」
「ゲームと一緒にされては困ります。貴方に最適の初期刀はもう決まっております。」
「そうなんだ。まぁいいけど。」
「山姥切国広だ。君が、そうか新しい主になるのだな。」
「へぇまんばちゃんが初期刀か!よろしくね。うわぁ、近くで見てもやっぱり綺麗だなぁ。」
まんばちゃんは私の顔をまじまじと見つめた。
「どうかした?」
「いや、似てるなと思っただけだ。」
「誰に?」
「昔の主だ。」
「え?私が初めての主じゃないの?話が違うよー。」
どうせなら1から本丸を作っていきたいのに。
「だから、ゲームと同じにされては困ります。
貴方様には、山姥切国広と一緒に先ずこの本丸の後片付けをしてもらいたいと思います。」
「後片付け?」
「そこここに散らばっている残党を先ずは狩ってもらわなければいけません。
その為に1人でも多く鍛刀をしていただきたく存じます。」
「それでは、詳しい話は山姥切国広から聞いてください。私はこれで。」
こんのすけは消えた。
このだだっ広い本丸を片付けろだなんて、ゲームには無かった。
「・・・片付けって昔から苦手なんだけどな。」
「片付けるのは俺と新たな刀剣がする。主は見ているだけでいい。」
「そうなの?じゃあ任せようかな?」
何となく嫌な予感は始めの頃からしてた。
でもこんな事になってしまうなんて思ってもいなかった。

「大倶利伽羅!左!」
「任せろ。」
「主、もっと下がっていろ!」
「うん。」
私達は本丸で戦闘している。
相手は時間遡行軍なんかではなく。
「なんのっ!皮一枚です!」
前田藤四郎。刀剣男子だ。
鍛刀部屋に行き、鍛刀を始めるとまんばちゃんは身を隠す場所を探した。
そして、ここなら誰も来ないとある部屋に入った。
そこで出会ったのは。
「よっ。俺みたいなのが居て驚いたか?」
ニヤリと笑う鶴丸国永だった。
出会い頭にまんばちゃんに一撃を喰らわす。
顔をしかめながらそれを受け流して、
「こちらに着くはずでは無かったのか!」
その声には土器を含んでいた。
まんばちゃんの一撃突きが繰り出される。
ひらりと躱して鶴丸は
「事情は全て三日月から聞いた、こちらに着いた方が面白そうだったからな。」
そう言って笑顔で乱撃が繰り出される。
僅かの力の差だろうが、まんばちゃんの方が形勢不利だ。
でも私に何もできる訳ではなく、まんばちゃんに指示された通り壁に背中を付けてガタガタ震えている。
トンっと飛び一気に私の近くまで近寄り、顎を持たれる。
「確かに似ている。これは驚きだ。」
そう言って優しい目で頭を撫でられた。
「主から離れろ!・・・斬る!」
「おっと、これは怖い。主の顔も一目見れた
事だし退散とするか。」
そうして鶴丸国永は軽やかにまんばちゃんの攻撃を躱しながらどこかへ行ってしまった。
「なにこれ、なんで刀剣男子同士で斬りあってるの?」
恐怖と混乱で涙が出てくる。
「まんばちゃん、説明してよ。」
「すまない。それは主が見つけなくてはならない。ただこの本丸には、まだ主を狙っている刀剣達がいる・・・。」
「えぇ?なんで?いきなりこんな所に連れてこられて、私がなんで狙われてるの?!
もう嫌だ。帰りたい・・・。」
「帰って主の居場所はあるのか?」
妙な事を聞いてくる。
「無い・・・かも知れないけど。」
「なら、ここに居てくれ!俺が必ず主を守る。」
どうせ帰る方法も分からないから、ここに居るしか無いんだけど。
「じゃあ、まんばちゃん絶対に負けないでね!」
「分かった主に誓う!」
そうして鍛刀部屋に様子を見に行くと大倶利伽羅が顕現されていた。
「・・・・・・大倶利伽羅だ。事情は把握している。が、馴れ合う気はないからな。」
「大倶利伽羅!」
「事情を把握してるの?」
「ああ。だが俺はアンタの味方だ。」
皆が味方だと不思議な事を言う。
ゲーム設定だったら、無条件で主に仕えるのに・・・
「2.5次元もそんなに甘くは無いって事かぁ・・・」
「見つけましたよ、主君。」
「近寄るな。」
大倶利伽羅がすかさず抜刀して前田藤四郎に刃を向ける。
そうして大倶利伽羅とまんばちゃん、前田藤四郎の戦いは始まった。

「貴方達に主君を独占する権利なんてありません。」
「独占する訳じゃない。」
「アイツに渡す訳にはいかない。それだけだ。」
「形勢不利ですね・・・誰か気づいてくれると良いのですが。」
「俺を呼んだか?」
上から飛び降りて大倶利伽羅の頭を狙ってくる。
すんでのところでそれを躱して、
「アンタが相手か。」
大倶利伽羅は向き直った。
「お前の相手は俺だ!」
まんばちゃんも鶴丸国永に向き直る。
「主、もう一度鍛刀を!」
「分かった!!」
「短刀でもなんでも良いから誰か来て!」
先程の部屋で見つけた手伝い札もくべる。
これで直ぐに誰かが顕現されるはず。
炉心から光が広がる。
「黄金レシピは暗記済み。ヲタク舐めんな!」
光の中から、
「我が名は小烏丸。外敵と戦うことが我が運命。千年たっても、それは変わらぬ。」
「父を呼び出すとはよくやった。褒めてやろう。」
「お父上・・・。まんばちゃんを、大倶利伽羅を助けて!」
「分かった。」
お父上はふわりと飛んだかと思うと、羽のようなしなやかさで外へ出ていった。
外に出てみると形勢逆転。
向こうには鶴丸国永、話では三日月宗近まで居るんだからそれなりの太刀が必要と思ったのだけれど大正解だった。
それでもお父上は、
「人の身とは、何とも思い通りにはならんものよの。」
とか言い、2振り相手に斬撃を繰り出していた。

「小烏丸殿を呼び出すとは、流石主。」
アタマを撫でられる。
「まんばちゃん、子供扱いしないでくれる?」
「我らからすればみな子供のようなものよ。」
「お父上も。」
確かに子供だけれども。一応主なんだからこう、敬意のようなものをはらって欲しい。
皆に子供扱いされるのは不本意。
「大丈夫だ。幾つであろうが俺達の主である事には変わりない。」
大倶利伽羅がぶっきらぼうに呟く。
「それなら良いんだけど・・・」
「ねぇ、誰かに似ているってまんばちゃん言ってたよね?どんな人だったの?」
しばし沈黙。
「あの者はとても綺麗な目をしておった。」
父上が沈黙を破る。
「そなたのように色白で愛らしい瞳の主であった。」
「その人はどうなったの?」
「・・・死んだ。」
「え?」
しぬ?死ぬの?ゲームじゃ審神者は死なない筈なのに・・・この本丸では死ぬの?
恐怖がじわじわと襲ってくる。
「・・・な、なんで死んだの・・・?」
皆が黙りこくる。
不吉な死、とか?
「ねぇ、なんで」
「元主は自害された。」
「じが、い。」
この本丸で自害するような出来事があったって事?
完全な事故物件じゃん!
「元主は最後に宝物を残された。
そのせいでこの本丸はおかしくなってしまったのだ。」
「そうよのう、確かに宝ではあるな。」
「鶴丸国永や三日月宗近、前田藤四郎も?」
「そうだ。」
「他にももっと居たりするの?」
「時の政府は、この本丸の解体を試みた。
が、元主は他の刀剣男子を育てすぎた。」
「え?それって皆カンストか極って事?!」
「かんすと、とはなんだ?」
「えーっと、最高に強くなり過ぎて上限いっぱいいっぱい?」
「強さでは我らも対応できるが、極みは1振りだけだ。」
「え?大倶利伽羅とお父上はさっき鍛刀したばかりだから・・・」
「彼らは主を失ってかなり経つからの、我らは顕現して間も無いが主と霊気は繋がっておる。」
「ガス欠寸前なんだ・・・なら、なんで私は呼ばれたの?
放っておいたら向こうは倒れてた訳でしょ?」
「政府は、我らは残しておく選択をしたので主が呼ばれたと言う訳じゃ。」
「これはこれは、都合の良い解釈をするのう。ジジイは感服したぞ。」
「天下五剣!!」
「新しい主よ。そなたは知らなくてはならない物語がある。
その為にあやつの元に連れていかねばならぬ。」
「そうはさせないぞ!」
「主、主が選ぶがよい。あの者の元に行くか山姥切と共にあるか。」
「父を忘れてもらっては困る。」
キィン。鋼と鋼がぶつかる高い音。
「これは小烏丸殿。無粋な挨拶じゃな。」
「俺も忘れてもらっては困る。」
大倶利伽羅が袈裟斬りにする。
三日月宗近は後ろへ飛んだ。
「主と話さえもさせてもらえぬとは。」
私はどうしたらいいのだろうか?
「宗近!私に会いたいとは誰の事?」
「来れば分かる。」
「名乗りもしない奴と会いたくなんかない!!」
「あいわかった。ならば、」
何十振りの刀に囲まれる。
「主は渡さん!!」
まんばちゃんが斬りかかっていく。
それを見た大倶利伽羅、お父上も後に続く。
無理だ。この人数で立ち向かうなんて・・・
剣技の音が響く。どうしたらいいかも分からない私はみんながボロボロになっていく姿を見続けるしか無かった。
「あるじ、逃げ・・・」
「逃げれる訳がない!逃げれる訳がないに決まってるじゃない!」
「さっきの言い方だと私が着いて行けば許してくれるんでしょ?
三日月宗近!!」
「方、この者らを助けて欲しいと言う事かな?」
攻撃が一瞬止まる。
「それと、私はここの本丸の主として呼ばれた。
あなた達はなぜ従わないの?!」
「これはこれは、なかなかに痛い所をついてくる。
皆、主命であるぞ。」
完全に攻撃が止まった。
まんばちゃん達に駆け寄る。
「大丈夫?」
「手入れ部屋に連れて行ってもらって。」
「主の傍を離れる訳にはいかない。」
「誰か、手伝い札は持ってないの?」
「ジジイので良ければやろう。ただし2枚しかない。」
「俺は主に着いていきます。」
ボロボロので体でまんばちゃんは言う。
こんなになってまでも、私の身を案じてくれているのか?
目頭が熱くなる。
「三日月宗近、山姥切国広と一緒に行きます。」
「そこの重症を装った者が、これから会う人物に斬り掛からんとは限らん。」
「装ってるんじゃなくて重症なの!
譲歩しないからね!!」
「・・・あいわかった。」
「まんばちゃん、立てる?
ほら肩を持って。」
「主、会わない方がいい。」
「この騒動の張本人に会わないと気が済まない。」
「そうか・・・」
「では、案内しよう。」
三日月宗近の後に続いた。

そこは綺麗な白い牡丹が咲き乱れてて、神秘的な空間だった。
その奥にその人はいた。
対象的な綺麗な赤い人。くるりとこちらを振り返ると、
「私と同じ顔?」
そっくりと言ってもいいほどに似ていた。
どういう事?
元主と言われたから母かと思っていた。
だって母にもよく似ているから。
「会いたかったよ。」
そう言って優しい声で呼び掛ける。
「加州、清光。」
「そうではなくて父と呼んで欲しい。」
「え・・・?」
「加州清光!!それ以上言うな!!」
まんばちゃんが清光に掴みかかる。
だけど軽くあしらわれ。
「君も彼女が好きだったから、面影を見てたのか?」
「違う!」
「俺を悪人に仕立て上げる程憎まれてたんだね。」
「違うっっ!!」
まんばちゃんが刀を抜き清光の首元に刃を当てる。
「貴様がが全て間違ったせいで主は自害したのだ。
この主には干渉するな!貴様は消えて無くなればいい!!」
「山姥切国広、決めつけるではない。主も間違えてしまったのだ。
加州清光をどうするのかは新しい主が決めることでは無いか?」
「そうだね。長い話だけれど、良かったら聞いて欲しい。」
「山姥切国広、この子が俺を拒んだなら好きにしてくれ。」
「加州清みつ。」
「あれは20年前の事だったかのう?
そなたの母は齢18であった。」

母は初期刀に加州清光を選んだらしい。
ヲタクで言う所のきよさにだったらしい。
お互い好意はあったが、主と従者。人と神。
決して交わる事が許されない一線を母は越えてしまった。
加州清光はそれでもいいと。本丸にいる間だけ愛してくれたらそれでいいと言っていたらしい。
しばらくは母もそうしていた。
でも有り得ない事に私が出来てしまった。
それから母が本丸にくる日が無くなったと言う。
そして、現世に顕現して加州清光が家に訪ねると母が自殺した後であったと。
既に結婚していて、私の顔も見れなかったと。
私は母は心臓の病気だと聞いていた。
いや、聞かなかった。だから噂話なんて知らなかった。
現在いる父は、どういう思いで私を育てたのだろう。
そんな父を慰めてくれてたのが今の義理母なんだったのか。
世界に否定されたような感覚。自分がずっとしていた事なのに。
母は、この加州清光を愛していた・・・
「一度だけでいい。抱き締めさせてくれないか?」
父が言う。
「・・・一度だけだよ。」
「ありがとう。」
皆油断したんだろうね。
でも、話の通りなら私も刀剣の血を引いている。
打刀までもいかなくても。
「短刀程度なら出せたよ。凄いでしょ?」
「ただでさえ赤い衣装が更に赤黒くなっていくね。」
「分かっていた、これを俺は望んでいた。」
「うん。ゲームではこれもハッピーエンドの形でしょ?」
「主・・・」
「ママが可哀想だよ。多分ずっと清光の事を待ってる筈。早く行ってあげて?」
清光は私の頬にそっと触れて
「ありがとう。」と呟いて砕け散った。
「主の出した答えがそうであれば、我らも従う。」
「三日月宗近は勘違いしているね?」
「ほう。どのように?」
「私はここの主だよ。辞めるつもりもない。
あなた達は今から私の刀剣男子だよ?」
「主の望みとあらば。」
「加州清光を殺したのはー」
「まんばちゃんを傷付けたからだよ?」
「・・・山姥切国広、そなたの夢は娘が受け止めるらしい。喜べ。」
心なしか声色は冷たかった。
そう、私はまんばちゃん推し。推しがママの面影を追って居るのなら私が代わりになる。
現実なんてクソ喰らえ。ずっと来たかった世界に来れてずっと憧れていた人がいる。
手放すわけが無い。ふふふ。

「どうやら身内に責任を取らすのは無理だったようですね。」
「前の主はまだ良識があったが、加州と恋仲になった時点で全て狂ってしまったと思える。」
「審神者としては問題は無さそうと言うより。非常に優秀です。政府はこのまま様子見するそうです。」
「こんのすけ、俺は少々疲れた。ここら辺でジジイは退散したい。」
「刀解をご希望ですか?」
「ああ。」
「分かりました。政府に伝えておきます。」

それから、この本丸に加州清光と三日月宗近が現れることは二度と無かった。
私も成人して子供が出来た。
でもママとは違う。全てうまく乗り越えてみせる。
「ママ?スマホの刀剣乱舞って言うアプリ何?」
娘もそろそろあの頃の私と同い年になる。
そろそろ教えてもいいかも知れない。
「ママと同じゲームしてみる?」
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。