俺が現れた時には、主の横には歌仙が居てその時に初期刀でない事を知った。
俺の事知らないのかな?最初はそんな程度だったが主を知れば知るほど、なぜ俺を選んでくれなかったのか気になった。
そんなある日、主に呼び出される。
「加州、早く出来ないのかな?」
「ちょっと待って歌仙、ネイルが乾くまで。
そんなに時間はかからないから!」
「しょうがないなぁ。少しだけだよ?」
「はーい。」
近侍の余裕ってやつかな?初期刀で近侍だから愛されてるよね。そう思いながら速乾スプレーを振りかける。
「ねぇ、歌仙もネイルとかしてみない?」
「僕は料理当番が多いからお断りしておくよ。食器洗いとかすぐに剥がれてしまいそうだしね。」
「ふーん、そっか。」
「うん、もう表面は乾いたから後は触らないようにするだけ…歌仙、もういいよ。」
「じゃあ、行こうか。」
歌仙と2人で主の部屋へ行く。
「主、連れてきました。」
「入って。」
襖を開けると、真っ暗な部屋の中でライトをつけてしょるいを作成しているのだろうか?
「主、電気くらいはつけて下さい。」
「暗い方が頭が冴えるの。」
ここに来てから、進んで主の事を知ろうとはしなかったけど変わり者みたいだね。
俺は、俺を可愛がってくれなきゃ興味が湧かない。
「それで?主なんの用?」
「あぁ清光。」主は眼鏡を置いて
「今日から清光に近侍になってもらおうと思って。
どう?嫌かな?」
やっと主も俺が可愛いって気づいてくれたのかな?
って言ってももう遅いけど。
「主ごめんね、俺はー」
「加州、主に向かって失礼だと思うよ?」
「・・・清光、主命です。」
そうして主の近侍になる事になった。

近侍って言っても殆ど何もする事が無く、主の部屋でお手入れとかしてる日々だった。
「清光はいつも可愛くしてるよね。
私も可愛くしないとダメかな?」
「主は・・・ごめん、よく分からない。」
顔にかかってる紙のせいかな?主の姿は分からない。
初期刀や初鍛刀位になると、どんな姿が分かるらしいけど、俺は興味無い。
「分からなくてもいいよ。私は清光にとってはそういう存在だろうから。」と、意味深な事を言った。
露骨に態度に出ていたのだろうか?
少しだけ、控えるようにしよう。

「清光?」
「なぁに?」
「初出陣の部隊長お願いしてもいいかな?」
「別にいいけど?どんな顔触れ?」
「乱、歌仙、厚、大倶利伽羅、堀川」
げっ!主のお気に入りの刀剣達じゃん。
「あー・・・俺には荷が重いかなぁ・・・」
「清光?」
「はいはい、どうせ主命とか言うんでしょ?
分かったよ。」
「じゃあ皆を集めて出陣してきてください。」
「場所は?」
「池田屋です。」
「嫌だ、行きたくない。」
「清光。」
「あの光景を知らないから出陣しろとか言えるんだろうね。
元主や敵の血の温かさ、元主の弱っていく様子、切りつけた感触そして、」
「自分が折れた感覚?」
「ーつっ!!」
「清光、出陣してそれを乗り越えてきてください。」
「簡単に言ってくれるね・・・」
「自分が折れる事がどんな事だか分からないくせに。それを乗り越えろとか、俺の事を考えてくれるならそんな事を言える訳ないよ。」
くるりと主に背を向けて、歩き出す。
「きよみ、つ」
「ここの本丸から出ていく。」
「待って!」
返事もせずに主の部屋から出る。
この本丸から出ていく、その決心は変わらない。
でも俺1人じゃダメだ。
誰か協力者が・・・
「話は聞いていたよ?
僕達が力になってあげるよ。」
「燭台切、それに大倶利伽羅」

「確かに自分が折れる姿は見たくないだろうからね。」
「主が何を考えてるのかが分からない。」
「確かにね、でもその前に加州君が主の事をどう思っているの?」
「俺ー?」
「僕からしたら、主にそもそも興味が無い感じがするから珍しいな。って思ってたんだよ。」
「俺達からしたら、主の存在は特別だからな。」
「でも、その割にはネイルやお手入れして綺麗にしてるよね。」
「ー!!!」
燭台切や、大倶利伽羅から見ても俺が何をしたかったのかがバレている。
急激に恥ずかしくなる。
「初期刀に選ばれなかった事がそんなに屈辱だったか?」
「・・・確かにね。後で新撰組が好きだって分かったら、尚更なぜ俺を初期刀に選んでくれなかったのかずっと疑問だった。」
「加州君が毎日お手入れしていても、可愛がってくれない主を恨んだ?」
「恨んではいないよ?ただ、どれだけお手入れしても虚しくはなってきたかな?」
「お前の言い分は子供じみている。でも、俺達はもう物では無い。お前の意思を尊重する。」
・・・燭台切も、大倶利伽羅も可愛がられてるイメージがあったけど、俺みたいに主に不満でもあるのかな?
「俺の意思は、もう主とは歯車が噛み合って無いんだと思う。だから本丸からやっぱり出ていく。」
「分かった、だそうだ。」
すると、物陰から人が出てくる。
「清光がそう決めたんならしょうがないよね。
辛い思いさせてごめんね、清光。」
「主・・・」
主はその後も何も言わずに、俺が本丸から出ていく準備をしてくれた。
こんのすけにも確認されたが、決意は変わらなかった。

そんなある日、主の部屋の前を通ると話し声が聞こえてきた。
甲高い声。相手はこんのすけか?
「・・・から、あの加州清光はバグみたいなものなのです。」
「?!」
思わず物陰に隠れる。
「加州清光と言う存在は、1度折れています。
そのトラウマがあるが為に、主に見捨てられないように、可愛く手入れしたりどの刀剣男子よりも主に対しての想いが強くなければいけません。」
「だかしかし、この本丸での加州清光は主に対しての想いは強いけれど、主を拒んだので処分するべきだと、時の政府のご意見です。」
「処分・・・」
「主自らの手で刀解して頂きたく存じます。」
「それは・・・それは出来ない・・・」
「加州清光は仮にも神であります。勿論ただの人間なぞその気になれば。」
「清光は!・・・清光はそんな事はしない・・・
それに、それに身体を伴って尚同じ思いをさせるなんて出来ない・・・」
「しかし、主命も守らない付喪神が暴走する恐れもあります。」
「なので、加州清光を刀解しない場合はこの本丸をー」
潰すだって?!
突然肩を掴まれた。
声が出そうな所をすんでのところで我慢した。
振り返ると大倶利伽羅がそこにいた。
2人で人気の無い所に移動する。
「俺と光忠は、以前から時の政府側の話を聞いていた。」
「だから2人共俺に協力してくれようとしたんだね。」
「俺達は、消える気もない。主も必ず守る。
だからお前は逃げろ。」
「・・・」
「何を迷っている。お前は壊されるんだぞ?」
「でも、それだと・・・」
「主の初期刀は、別に和泉守兼定と同じ兼定だから歌仙が選ばれた訳じゃない。」
「違うの?」
「主の家系が、歌仙の元主と遠い縁があったそうだ。」
「そう、だったんだ・・・」
「加州が主を避けだした頃から、主は時の政府に相談していたが・・・」
「俺を刀解したらどうなるの?」
「・・・又鍛刀にて顕現する。が、今の記憶は全て無くなっているそうだ。」
「そう、か。」
「時の政府が言い渡した期間は後3日だ。」
「それまでに何としてもお前を逃がす。俺達に任せろ。」
「あんな奴らの思い通りにはならない。」

3人で逃げる手筈を整える。
刀解直前に2人が主を一時だけ人質にして逃げ道を与えてくれる。
それからこの転移装置まで来て。
好きな時代まで逃げる。
逃げる先は新撰組が発足した時代かな?
その後が気になったけど、とにかく俺は刀解されずに済む。
ーその後の本丸がどうなるかは分かってる。
でも、肉体を持って更に折れることが死ぬ事だと理解でき、本当に恐ろしいと感じてしまってる。
「俺、結構臆病者だったんだな・・・」
「清光?」
俺をそう呼ぶ人は限られてる。
「主?」
「・・・あのね、清光にずっと伝えたい事があって。」
なんだろ?明日の事かな?いや、まさかそれは絶対に言わないはず・・・
「・・・清光可愛いよ。清光は本当に可愛い。」
「!」
「本当に可愛い・・・ごめんね・・・」
主は踵を返して自分の部屋に戻った。が泣いていた。
「主も選択を迫られてたんだ・・・俺みたいな刀とっくに見捨ててるんだと思ってた。」
でも違った。泣いていた。俺の為に・・・。
明日、俺は決断出来るのだろうか?
俺を庇うためにどうなるのか分からない、燭台切、大倶利伽羅、そして主。
頭が混乱して分からなくなってきた。

朝、甲高い声で
「加州清光、さあ起きて下さい!」
と起こされる。
「貴方が本丸を出て行く日です。着いてきてください。」
こんのすけの後を着いていく。
鍛刀部屋に着いた。
主や燭台切、大倶利伽羅や他の連中も揃ってる。
この人数を2人で抑える事ができるのか?
「貴方には刀解してもらいます。なぁに大丈夫です。
今の身体は無くなりますが、神としての霊気は次の加州清光に降りるのですから!」
「やなこった。」
打ち合わせをしていた2人と目を合わす。が、2人は何故か目を逸らした。
「ごめんね、元々僕達はこちら側なんだよ。」
と、燭台切が主の首元に刃をあてる。
「お前が聞かなくてもいい話を聞いたせいで、余計な手間がかかった。」
「燭台切・・・大倶利伽羅・・・」
「僕も主殺しの罪は着たく無いんだけど、こうでもしないと僕達全員壊されるからね。」
「主の変えは用意してくれるみたいだから。」
「な・・・」
「光忠も大倶利伽羅も何を言ってるの?」
「君は知らなくてもいい話だよ?
さぁ、彼に炎の中に飛び込むように命じて?」
「なんで光忠がそんな事を知ってるの?・・・なんで私を殺そうと・・・?」
あ、主が泣きそうな顔になってる。俺はあんまり主の泣き顔好きじゃないんだけどな。
「キミは、僕達全員の命と加州君の命とどっちが大事なの?、」
「・・・ない。」
「え?」
「どっちの方が大事とか、そんなんじゃない!!」
「皆大事なんだよ、全員に消えて欲しくない!
なんで誰かが傷つく選択をしなくちゃならないの?!
私は誰も傷つけたくない!
それならいっその事私の首を跳ねなさい!」
「それが主としての答えですね。じゃあ燭台切光忠、主の首を跳ねてしまってください。」
「・・・そうしたいけど、何でなんだろうね?腕が思うように言う事を聞いてくれないよ・・・。」
「では、大倶利伽羅お願い致します。」
「・・・俺も主の気持ちに触れて使い物になりそうに無いみたいだ。」
2人の目には涙が溢れている。
やっぱり皆主が好きなんだな。今の俺にもようやく分かる。
「困りましたね、それではこの本丸を解体するという事になりますね。」
「おい、クソ狐。」
「私の事でしょうか?」
「お望み通り消えてやるよ。」
主の方に向き直ると、既に涙が次々に零れている。
お互いに不器用だったね。
「主!次会った時もちゃんと可愛いって言ってね!」
そうしてふわっと後ろ向きに飛んだ。
体が赤と青の炎に包まれる。
「清光!!
いゃああぁぁああああああああああああああああ!!」

目が覚めると、眩しい光に包まれていた。
「起きたか。」
あれ?この声は大倶利伽羅?
俺は確か刀解されたんじゃ・・・?
「先に、裏切るような事をして悪かった。」
「・・・いいよ。本丸と天秤にかけられたんじゃしょうがないよ。」
「とりあえずここでゆっくりしていろ。光忠に報告してくる。」
「ここは?」
「手入れ部屋だ。」
鍛刀部屋じゃなくて、手入れ部屋?
何が何だか分からない。
廊下の向こうから走る音が聞こえてきた。
「加州君、やっとおきてくれたんだ!良かったよ成功して!」
燭台切が、涙ぐんで手を握る。
「なんで俺が手入れ部屋にいるのか、説明してくれないか?」燭台切が話し始めた。
あの後すぐに、皆を振り払って炎で焼け落ちる前の俺を主が素手で取り出したらしい。
僅かの刀身であった鋼と新しい鋼を足して、殆ど鍛刀に近い事をしたらしい。
それは成功で、俺は意識もしっかりしているし、多少馴染まないがそのうちちゃんと機動する様になるだろう。
「それで、主なんだけどね。」
話を聞いてビックリした。慌てて起き上がり主の元へと向かう。
そりゃそうだ。灼熱の炎の中焼けた鉄を素手で取るなんて、大火傷して当然だ!
「主!」
襖を開ける。
そこには長髪の女性が座っていた。
「え?・・・主?」
「あ!清光起きたんだ?記憶はどう?調子悪い所とかない?」
矢継ぎ早に質問されるが。声は主だけれど顔の前に紙が無いし、のっぺりしていない。
「清光?」
「俺は大丈夫!主は?ちゃんと見せて。」
顎を上げると右頬に大きなガーゼ、それから両手なんて全部が包帯でぐるぐる巻になっている。
「主、ごめんね・・・」
「そんな事はいいの、ちゃんと乾燥したら整形出来るし。
それより清光。」
「なに?」
「清光は凄く可愛いね。」
その言葉に涙が溢れて来てこう返した。
「主の方がもっと可愛いよ・・・」
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