「主、茶にしないか?」
「御手杵、ナイスタイミング。
ちょうど仕事が終わった所だったの。」
そうか、茶請けにせんべい持ってきたよ。
そうして主の横に座り、他愛無い話を始める。
昼過ぎの俺の日課だった。
顕現されてから、縁側で庭を眺める主を見かけた時から茶友達になった。
他愛も無い話だが、主はコロコロとよく笑う。
主の笑い声はとても心地いい。
そうやって毎日2人で笑っていた。

「御手杵と主は仲が良いんだな。」
「そうか?まんばもこの前主と話して無かったか?」
「俺は、主がスーツをアルマーニのオーダーメイドにしてくれると言うから、話を聞きに言っただけだ。」
「まだ、そんな事してるのか・・・」
「俺はもう写しが気にならなくなっているのだけれどな、主は本家をからかいたいみたいだな。」
「はは、主らしいな。」
「・・・御手杵は少々主に砕けすぎないか?」
「俺がか?」
「以前聞いた時、主が物思いにふけっていたと。
それで声をかけたんだよな。」
「ああ、そうだが。」
「その時に主の邪魔をしてしまうとは思わなかったのか?」
主の、邪魔?
「ああああああああ、俺はなんて事してまったんだ!」
「いや、決めつけるのは早いが・・・」
「主は1人になりたかったんだ!それを俺は毎日邪魔していたなんて!水を浴びてくる!!」
「おい、御手杵!!
・・・俺は余計な事を言ってしまったのか?」
洗面台に行き、蛇口をあけて頭を突っ込む。
主は1人になりたかったのか・・・
俺は邪魔をするだけでなく主に気を遣わせていたとは。
っ!
「どうした、御手杵?」
「・・・」
「いかにも悩んでますと言う顔をしているな。
自分で良ければ話してみろ。」
蜻蛉切にタオルを渡される。
「実は・・・」
「ふむ、自分は主が迷惑だと言う話は聞いた事が無いがな。」
「そうかも知れないが、以前乱にデリカシーがないと言われたばっかりでな。」
「乱に何を言ったのだ?」
「頬がぷにぷにしてて気持ちいいと言った。」
「ははは、それは流石に乱も怒るだろう。だが、主の話とは別だと思うが・・・」
「こうなったら主に直接聞いてくる。」

「主、主!」
「うわ、ビックリした!」
「御手杵どうしたの?って頭びしょびしょ。
お風呂でも入ったの?」
主は俺の手からタオルを取り、背伸びをして頭を拭きだす。
「あああ!」
「えっ?!なに?」
「い、いい!自分で拭く!!」
「そう?」
頭を拭きながら尋ねる。
「主は毎日・・・」
その先が言葉にならない・・・何故だ?
「毎日・・・なに?」
顔を覗き込んでくる。
主は、もしそうだとしても迷惑だとは言わないだろう。
じゃあ、俺が行動を控えれば良いだけの話だ・・・。
「毎日仕事大変だよな。そう言えば遠征の話があったよな。俺も編成に加えてくれないか?」
「え?なんでいきなり・・・」
「いや、毎日本丸で過ごしていたら腕が鈍ると思ってな。」
「・・・そっか、じゃあ部隊長として頑張って来てください。」
「部隊長?俺がか?」
「はい。」
「分かった、頑張って来るよ。」
そうして俺はしばらく遠征に行く事になった。

「って、なんで三名槍が編成されてるんだ。」
「主は遠征と共にお前の悩みも解決するようにとだな」
「まるで、」
「まるで子供扱いだよね。」
加州がニヤニヤして話し掛けてくる。
「そうとまでは言ってないが・・・」
「でも思ってるんでしょ?顔に出てるよ。」
「確かにその・・・」
子供扱いされていないとは言いきれないが・・・
この胸のモヤモヤはなんだ?スッキリしない。
「俺もそうだけど、御手杵も元の主に似てるよね。
無意識に1番避けようとしてない?」
加州が突っかかってくる。
ただでさえ、モヤモヤしてるのにカチンとくる。
「似てたら悪いのか!」
「御手杵、落ち着け。加州も煽るのをやめてくれ。」
「部隊長がこんなだと、主も悲しむだろうね。」
胸がキュウと苦しくなる。なんだ今のは?
「ま、俺が間抜けな部隊長の代わりに活躍するけどね。」
「あ、ずるーい!僕も活躍して誉貰うんだからね!」
「乱には100年早いかな?」
「加州の方が年下のくせに生意気だよ!」
「誉は俺が!」
そう、主は褒めてくれた。誉を取ったあの日。
また、今度はズキンとする。なんなんだ苦しい・・・。
「「「「御手杵!!!」」」」
俺は倒れていたようだ。
「部隊長がこんな状態だと戦にならない。速やかに本丸に帰るべきだ。」
「だーかーらー、アレは病気でも負傷でもなんでも無いって。」
「しかし、現に御手杵は倒れてだな!」
「加州、蜻蛉切・・・」
「御手杵!大丈夫か?」
「ああ、ここら辺が時々痛むがなんて事は無い。
それより時間遡行軍達の動きは?」
「まだみたいだよ。」
「御手杵大丈夫なの?」
「ああ、今は痛くない。」
「それってさ、モゴ」
加州が乱の口を塞ぐ。
「敵に塩を送ってなんてやらないからね。」
「敵?どこに出た?!」
「これじゃ、送った方が良さそうな気もしてきた・・・」
「なるほど、そういう事でしたか。」
「皆、鶴翼陣だ!隊列を乱すな!
・・・?」
「何笑ってるんだ?」
「なんでも無いよーだ。」

「おかえりなさい、皆無事で良かったよー!」
主が1人ずつ抱きしめる。
皆に抱きつく必要なんてあるのか?
「御手杵もおかえりなさい。って難しい顔してるけど大丈夫だった?」
「いや、俺は負傷した。」
「えっ?!どこ?大丈夫?!!」
「大丈夫じゃない。」
そうして主に背を向けた。が、俺は何を怒ってるんだ?
「誉は俺が取ってきたのに・・・クソっ。」
こういう日は寝るに限る。
晩メシも食べずにさっさと寝る用意をする。
「またムシャクシャしてきた。」
布団を被った。

真夜中、キッチリと腹が空いて目が覚めた。
握り飯でも食うか。
台所へ向かう途中見事な月が見えた。
どこも欠けてない見事な満月。
いや、三日月の方が主は喜ぶのだろうか?
俺の足が自然と主の部屋へ向かう。
主は部屋の前の縁側でやはり1人で月を眺めていた。
「あ、御手杵。もう大丈夫?」
「ああ。」
そうだ、この本丸の主はマイペースなんだから振り回される事は無い。
「ここ座っていいか?」
「うん。綺麗なお月様だよねー。」
「あ、三日月の方が皆喜ぶかもね?」
皆の話とか聞かなくてもいい。多少強引でいい。
この主に仕えるなら。
「膝貸して貰うぞ。」
「え?」
ぼふんと主の膝に頭を乗せる。
「今日は誉を取ったんだから。」
これくらいのご褒美は貰っていいはずだ。
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